ステップ1:症状を「HTTPSの制御」と「UDP/RTCのメディア」に分ける
最初に現象を言語化します。サインイン・会議への参加リンク・チャット・ファイルプレビューまでが比較的安定していて、問題が通話開始後の映像・音声・画面共有に集中する場合、疑うべきは「ブラウザやデスクトップクライアントが送る HTTPS リクエスト はプロキシ経路に載っている一方で、UDP で流れるメディア が別ポリシー・別品質になっている」というパターンです。Zoom と Teams はともにクラウド側の構成やクライアントのバージョンで接続先ホストが増減するため、公開されているドメイン一覧をそのまま丸写しするより、自分の環境のログに出ているFQDN を一次情報にすることが安全です。
切り分けの観点は次のとおりです。第一に、システムプロキシ のみを有効にしている場合、アプリによっては HTTP(S) は確実に取り込めても UDP を同じ出口に載せられない ことがあります。第二に、TUN を使うと取り込み方が変わり、UDP も含めてルールに乗りやすくなる一方、仮想アダプタや他VPNとの競合の影響を受けやすくなります。第三に、通話が RTP/SRTP や WebRTC ベースだと、TCP 主体のウェブ閲覧より ジッター(遅延の揺らぎ) や パケット損失 に敏感です。第四に、ノードの種類によって UDP リレー の扱いがまちまちなので、同じ「ルール代理」でもメディアだけ破綻することがあります。
この段階で Clash のログ(ルールヒット・接続ログ)を開き、会議中に どのホストがどのポリシーグループにマッチしたか をメモします。以降の YAML 追記はこのメモが土台になります。システムプロキシと TUN の整理は Clash TUN とシステムプロキシの比較・トラブルシュート で補足できます。
ステップ2:Zoom/Teams の会議ドメインをログで束ね、専用ポリシーグループへ送る
検索クエリになりやすい zoom.us や teams.microsoft.com は出発点として有効ですが、実際のクライアントは *.zoom.us、CDN 名、認可エンドポイント、Teams なら microsoft.com 配下の複数サービスに分散します。ルール分流 では、まず購読の Rule Providers に任せつつ、自分のログで確定した接続先 を DOMAIN または DOMAIN-SUFFIX で束ね、会議に使いたい出口 をまとめたポリシーグループ(例:MEETING-EXIT)へ送るのが現実的です。
設計のコツは、最初からドメインを過剰に細切れにしないことです。「会議アプリ関連を一つの select/url-test に載せる」 で足りるケースが多く、細分化するなら 認証・CDN・メディア のように役割が明確に違う塊だけ分けると YAML の保守が楽です。分流の骨格は Clash YAML ルール分流ガイド で扱っているので、本稿では会議シナリオ向けの 追記位置 と 購読ルールとの競合 に焦点を当てます。
proxy-groups: - name: "MEETING-EXIT" type: select proxies: - "node-low-latency" - "PROXY" - "DIRECT" rules: # Place meeting rules ABOVE broad GEOIP / MATCH - DOMAIN-SUFFIX,zoom.us,MEETING-EXIT - DOMAIN-SUFFIX,teams.microsoft.com,MEETING-EXIT # Add hostnames from your client logs (Zoom/Teams releases change FQDNs)
上の例は たたき台 です。RULE-SET が先にマッチ しているとカスタム行を足しても効かないので、競合する行より上に移す か、購読側の順序設計を見直してください。また、会議機能が ブラウザ(Edge/Chrome) 経由か デスクトップ専用クライアント かによって出るホストが変わる点にも注意します。
ステップ3:STUN/TURN・UDP メディアが意図した経路に乗っているか確認する
WebRTC(RTC) は peer 間の接続確立に STUN を使い、ファイアウォール越えが難しいときに TURN サーバを中継として使うことがあります。ここが途切れると「相手の声は届くが自分の声だけ出ない」「映像だけ一方通行」など、典型的な片方向トラブルに見えます。TURN のホスト名やIP帯はテナント設定や地域で変わるため、静的なリスト一冊だけに依存せず、クライアントの統計/接続テスト画面 と Clash のログ を突き合わせるスタイルが安定します。
UDP まわりでは、利用中の Clash Meta(mihomo)コア とクライアント GUI の組み合わせが、UDP を期待どおり扱えるかが焦点になります。節々で挙動差が出るため、必要なら コアのアップグレード も検討対象です。ノードについては、同じサブスクリプション内で レイテンシの低い別ノード に切り替えて会議の安定性が変わるか試し、変わるならプロトコルや事業者側の UDP 経路がボトルネックの可能性があります。あわせて OS の ファイアウォール やエンドポイントセキュリティが、Clash のプロセスや仮想 NIC 宛の UDP を制限していないかも確認します。
ステップ4:TUN と「アプリ全体の取り込み」——システムプロキシだけでは足りないケース
会議クライアントが システムプロキシ設定を参照しない 実装である、あるいは内部でプロキシをバイパスする挙動があると、HTTPS だけ偶然通っていて UDP が直結側に逃げる、といったミスマッチが起きます。TUN はトラフィックの取り込み方を変えるため、こうしたケースの解になりやすいですが、管理者権限や仮想アダプタの競合、他の VPN との二重トンネルなど、環境固有の要件も伴います。
実務では、まず「会議アプリを起動した状態で Clash のログに UDP が現れるか」を確認し、現れない場合は TUN の有無やクライアントのプロキシ設定を変えて再測定します。また、Split tunnel 系の設定を OS 側で持っている場合、会議アプリだけが別インタフェースに抜ける こともあるため、Wi‑Fi と有線の切り替えや VPN のオンオフでも再現性を見ると切り分けが早くなります。
ステップ5:DNS(Fake-IP)とルール順——MATCH より上に会議用の行を置く
ルールは 上から最初の一致だけ が有効です。購読プロファイルの末尾が MATCH や広い GEOIP になっているとき、会議向けの行が下に沈んでいる と意図したポリシーに届きません。Fake-IP を使っている場合は、名前解決の見え方が変わり、ルールマッチのタイミングが直感とずれることがあります。DNS の整理は Clash Fake-IP と Redir-Host の比較・ローカル解決トラブル と併読するとよいでしょう。
コツは次の三つです。第一に、会議関連の DOMAIN 行を GEOIP/MATCH より上に移す。第二に、nameserver-policy などで特定ドメインの DNS を分けている場合、解決結果とルールの組み合わせが想定と揃っているかログで確認する。第三に、購読を更新した直後だけ症状が変わるなら、追記した行が RULE-SET に負けている 可能性を疑う。これらはいずれも「YAML に一行足したつもり」でも、順序と DNS で無効化されうる典型パターンです。
補足:Netflix 換区・Discord 音声の記事との違い
Netflix の regional 視聴向け記事 はストリーミング CDN とエグジット地域の整合を中心に据えています。Discord の音声向け記事 は discord.gg とボイス UDP を同じ棚で扱う構成です。一方、本稿の Zoom/Teams は、多くの場合 職場アカウントとセキュリティポリシー が絡み、利用可能なプロトコルや必要な開放ポートが組織ごとに異なります。「同じ UDP 問題」でも 個人の娯楽ストリーミング と 企業会議 では前提が違う、と頭の片隅に置いてください。
よくある質問(補足)
ZoomやTeamsの会議トラフィックはTCPだけですか?
制御やWeb部分はHTTPS(TCP)ですが、音声・映像のメディアはUDPとWebRTCが主役で、STUN/TURNも使われます。
システムプロキシだけでは会議が不安定になりますか?
HTTP(S)は通ってもUDPが同じ経路に乗らない、またはUDPリレーと相性が悪い場合があります。TUNの有無やノードを疑います。
STUNとTURNはルールでどう扱えばよいですか?
ホストは可変なのでログで実測し、DOMAINで希望のポリシーに束ねます。組織の許可範囲と合わせてください。
まとめ
2026 年時点でも、Clash 利用中に Zoom/Microsoft Teams の会議だけがカクつく・無音になる悩みは、TCP と UDP/RTC の役割分担 を理解すると説明しやすくなります。対処の中心は、会議クライアントが実際に触れているFQDN をログで確定し、ルール分流 で望む出口の ポリシーグループ に束ねること、そして UDP・TURN が意図した経路に乗っているかを TUN やコアの組み合わせで裏取りすることです。DNS と RULE の順序 を軽視すると、YAML を足したつもりが効かないまま時間を溶かしがちなので、まず MATCH より上 と Fake-IP の見え方 を確認する流れがおすすめです。
クライアントの入手や各 OS 向けの一覧は ダウンロードページ からまとめて確認できます。購読リンク(サブスクリプション URL)の更新や、追記した YAML の反映は、利用中の GUI の手順に従ってください。